認知症の最新医療

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<特集>BPSD-介護者を悩ませる症状を理解し対処するために

Vol.3,No.2 通巻9号(2013年4月)

発売:2013年4月25日

価格:800円+税



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特集
Vol.3,No.2 通巻9号(2013年4月)

BPSD-介護者を悩ませる症状を理解し対処するために

特集にあたって
下田健吾

本号では、BPSDを特集として取り上げることにした。私は大学病院の精神科で診療をしているが、ここ数年、認知症の精査・診断よりもBPSDの診察依頼が明らかに増加しており、うつ病患者の心的負荷要因に肉親の介護の難しさが背景にあることが多いことも同時に実感する。そもそもBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)は認知症に伴う行動や心理症状という意味であるが、最近まで認知症の周辺症状とも呼ばれており、認知症と異なる精神の病ではないかと解釈されることも少なくなかった。多くの臨床医は非薬物療法が第一選択であると理解しながらも、早急な対応を迫られ半ば手探りの中で薬物療法を行うことが多かったのではないだろうか。

ここ2~3年でBPSDに対する認識は啓蒙活動等で高まっている。しかし負のイメージは拭えていない。BPSDがみられるのは特別なケースであると考え、家族や医療関係者も巻きこみ自責的に捉える人もいれば他責的に捉える人もいる。BPSDで介護者の精神状態が悪化し、うつ病や患者への虐待に繋がる。BPSDに対する過剰な薬物療法で日常生活動作が悪化した、BPSDで入所するはずの予定が先送りになったなど、負の面ばかりが伝えられる。医療関係者もBPSDは手強いと警戒し、明確な回答を避けようとする。BPSDという一定のイメージのみが先行し、高齢者医療の基本である個々の疾患、その背景にある状況を捉えるという全人的姿勢や治療方針が見えてこない。これが最大の問題ではないであろうか。

BPSDに対する優れた著書や雑誌の特集は数多くあるが、たいていは教科書的な印象がある。実は私の書棚にも何冊か並んでいる。本号は、前出の背景と本誌のモットーである、わかりやすく、適度な量で、実践的であることを念頭に、第一線で活躍している先生方にご執筆をお願いした。本特集が書棚にしまわれる前に、少しでも読者の皆さんの記憶に残り、お役に立てれば幸いである。

1.BPSDとは-なぜ今注目されるのか
粟田主一

BPSDは認知症の人の、・施設入所、医療機関への入院、救急事例化のリスクを高め、・医療・介護費用を増大させ、・家族や施設職員の介護負担を高め、・本人の機能障害を増大させ、・本人および介護者のQOLを低下させる。世界一の長寿国であるわが国にとって、認知症は誰でもが罹り得る国民的疾患である。たとえ認知症になっても、尊厳をもって質の高い生活を送ることができる社会を創出するためには、BPSDの深い理解が欠かせない。

2.4大認知症のBPSDの特徴
長濱康弘

4大認知症のBPSDについて概説する。アルツハイマー病の初期にはアパシー、易刺激性、もの盗られ妄想などがよくみられ、進行するとagitation、誤認、夕暮れ症候群などが増える。血管性認知症ではアパシー、抑うつの頻度が高い反面、アルツハイマー病に比べて妄想は少ない。レビー小体型認知症では初期から幻覚、誤認、妄想など精神症状が高頻度にみられ抑うつも多い。前頭側頭型認知症では常同行動、脱抑制、食行動異常などが特徴的である。疾患ごとのBPSDを適切に評価することは、診断をする上でも治療やケアを計画する上でも重要である。

3.治 療

1)非薬物療法の立場から:重要性・有効性を再考する
服部英幸

非薬物療法はBPSDを改善するために薬物療法に優先して考慮され、実施されるべきものである。BPSDは残存する神経が身体の変調、外界の変化などに対して何とか対応しようとすることから生じると解釈されるが、言葉や行動での働きかけにより、適応できる方向への行動変容を促すことは意義がある。認知症の非薬物療法として提唱されている手法は多いが、効果検証は困難であり、現段階では個々の手法で高いエビデンスレベルが示されているものは多くない。治療効果は患者の嗜好性や実施時点での認知能力の影響が大きく、実施するスタッフの力量にも左右される。個々の治療法の間で優劣を決めることはあまり意味がなく、複合的手法を用いたり、患者の好みに応じて行えることが望ましい。

2)薬物療法の立場から:向精神薬 特に抗精神病薬の使用をどう考えるか
橋本 衛

BPSDは、認知症をもつ個人が周囲とのかかわりの中で示す症状であることから、BPSD治療は環境調整を中心とした非薬物療法が中心となるべきである。しかし臨床現場では、抗精神病薬による治療が必要な激しいBPSDを呈する事例に遭遇することは稀ではなく、そのような場合には躊躇せず薬物治療を開始すべきである。抗精神病薬は、死亡率上昇というリスクを有するが、幻覚・妄想、興奮のような特定のBPSDに対しては有効である。治療の際には、抗精神病薬のリスクを最小限にするために、・薬物治療のターゲットとなる症状を明確にする、・完全な治療効果を求めない、・副作用発現時はすみやかに減量する、・背景疾患を考慮する、などの点に注意する。

3)薬物療法の立場から:抑肝散や抗認知症薬の有効性は
高橋 晶

認知症の周辺症状(BPSD)には、医療者・介護者の多くが困る症状である。薬物療法としては抗認知症薬や抑肝散が、現在有用であるといわれている。抗認知症薬は認知機能障害だけでなくBPSDにも効果がある場合があり、疾患や状態を考慮して適切に処方することが求められる。抑肝散は一般の抗精神病薬にみられるような錐体外路障害が出現しないため、ADLを悪化させないことや持ち越し効果があることが昨今いわれてきている。いずれにしても適応をよく考慮した上での使用が大切である。

4.介入および対応 -介護施設においてどのように対応すればよいか
渕田英津子

BPSDは認知症の中核症状に便秘、痛みなどの身体的要因、不安や孤独感などの心理的要因、居室の変更や来客といった物理・社会的要因が作用して出現する。介護施設のBPSDの出現率は高く、利用者の生活の質を低下させ、ケア職員の精神的負担となることが明らかにされている。また、BPSDのケアは非薬物的介入が原則であるが、介護施設において有効な方法は確立されていない。そのため、介護施設でケア職員が使用可能な介入および対応方法の検討が重要である。

情報発信

◆地域保健のトピックス
いわゆる困難事例から-内縁という関係:医療上の意思決定
井藤佳恵

◆目で見る神経病理9
意味性認知症
藤城弘樹

◆病名に名を残した医学者8
ハンス・ゲルハルト・クロイツフェルト
新井平伊

◆認知症に関連する用語9
活動減少型せん妄(寡活動性せん妄)/ ADNI
柴田展人

◆最近のジャーナルから<新連載>
Shimada H et al. Movement Disorders 28: 169-175,2013 /
Ballard C et al. Drugs Aging 28: 769-777,2011
山本泰司

◆臨床に役立つ連絡先9
地域福祉権利擁護事業③(日常生活自立支援事業)
井藤佳恵

◆認知症の人の思い,家族の思い5
受入れがたいご本人の声-前編
認知症の人と家族の会 東京都支部


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