認知症の最新医療

認知症の最新医療

<特集>認知症の臨床的診断―薬物投与の前に鑑別を要する病態

Vol.1,No.3 通巻3号(2011年10月)

発売:2011年10月25日

価格:800円+税



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特集
Vol.1,No.3 通巻3号(2011年10月)

認知症の臨床的診断―薬物投与の前に鑑別を要する病態

特集にあたって
下田 健吾

 平成21年度内閣府の「高齢者白書」によると65歳以上の高齢化率は23.1%に達し、高齢化社会の進行を実感する。本年はアルツハイマー病に対する新薬が3種類認可され、認知症や関連する諸問題についての報道をも増えた。臨床を行っていても、認知症の患者さんの割合が増え、家族の認知症に対する認識も高まっていると実感する。私は老年精神医学の中で脳血管障害とうつ病の研究に従事してきたが、認知症と区別がつかない症例や、うつ病と診断しても認知症に移行する症例をしばしば経験してきた。異なる専門分野から、認知症の臨床に携わるようになった医師は少なくないが、より認知症か否かにこだわる傾向がある。このような移行組ならずとも、最近、認知症に関わる医療従事者が憂慮していることがある。それは、「認知症」ありきを前提に診断、治療、病態論が論じられる、いわば“ミクロ化”の傾向と、逆に「認知症」という用語の“マクロ化”である。本来狭義の「認知症」とは脳器質的障害により、いったん獲得した知能が非可逆的かつ進行性に低下するものであったが、次第に拡大解釈がなされ、「治療可能な認知症」という使い方はまだしも、「治る認知症」という使い方は根本的な誤解を招きかねない。
 第3号はこのような現状も踏まえ「認知症の臨床的診断―薬物投与の前に鑑別を要する病態」を企画することにした。各筆者はその分野のトップランナーであり、わかりやすく読み応えのある内容となっている。認知症の鑑別診断は決してなおざりにされているわけではないが、クローズアップされる機会が少ない。最後に、本特集が、少しでも認知症医療に興味をよせる読者にとって有意義なものになることを切に願う次第である。

1.老年期うつ病
水上 勝義

老年期うつ病では、抑うつ気分、興味の喪失、意欲の減退といったうつ病の基本症状を認めるが、身体愁訴や焦燥が前景にあると症状把握が困難な場合がある。アパシーは認知症をはじめとする器質性疾患にしばしば認め、うつとの鑑別が必要な状態である。老年期うつ病で認知機能障害が目立つ場合を仮性認知症という。仮性認知症と認知症の鑑別は必要だが、認知症にもうつ状態を呈することがあるため、うつ状態を見逃さないことが重要といえる。認知症の中では、レビー小体型認知症(DLB)が最も高率にうつを呈する。老年期うつ病とDLBでは症候的に類似点が多いうえに、うつ病と診断されその後DLBに移行する例もあるため、常にDLBの可能性を念頭に置く必要がある。老年期うつ病の治療では、安全性への配慮が重要なことを指摘した。

2.せん妄
岸 泰宏

せん妄は症候群であり、直接原因として身体疾患の存在を認める”medical emergency”のサインである。背景因子として、高齢、認知症の存在が挙げられるが、認知症とせん妄が合併した場合には鑑別が困難となる。現在のところ、せん妄の治療に対するエビデンスをもった治療方法はなく、老齢者の場合には特に体系的な予防介入が大切である。

3.アパシー
城野 匡 池田 学

アパシーの中核症状として、発動性の低下、興味の低下、情動の鈍麻、が挙げられる。アパシーは各認知症疾患に高頻度に出現し、臨床上は抑うつとの鑑別に注意を要する精神症状である。

4.特発性正常圧水頭症
数井 裕光 吉山 顕次 武田 雅俊

特発性正常圧水頭症(iNPH)はシャント術によって臨床症状が改善しうる病態である。また近年、わが国で行われた複数の疫学研究により、従来考えられていたよりも頻度の多い疾患であることが指摘され、認知症の日常診療における重要性が増している。iNPHの診断は、歩幅の減少、磁性歩行、開脚歩行を特徴とする歩行障害、思考緩慢、注意障害、再認が比較的良好な記憶障害を特徴とする認知障害、過活動膀胱を特徴とする排尿障害の3徴の評価からはじまる。そして脳室、シルビウス裂は拡大する一方で、高位円蓋部および正中部の脳溝・くも膜下腔が狭小化するという特徴的なMR画像所見を確認する。これらの所見が認められればシャント術の適応の有無を評価するために専門医に紹介することが望まれる。

5.その他の治療可能な認知症
山口 潔

記銘力低下を主訴に来院される方のほとんどは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症のどれか、またはその混合型といった進行性の疾患である。しかし、なかには治療により回復の可能性がある、いわゆるtreatable dementiaが含まれる。認知症の原因を特定し、回復や治療の可能性について検討することは、認知症診療の最初のステップである。本稿では、その他の治療可能な認知症の中で、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、甲状腺疾患、神経系感染症、薬物・アルコール症をあげ解説する。日常診療では、その他に、心不全、呼吸不全、腎不全、肝硬変、電解質異常、ビタミン欠乏症に伴う意識障害や、膠原病、悪性腫瘍、感染症に伴う精神・神経症状に留意する。

情報発信

◆地域保健のトピックス
いわゆる"ゴミ屋敷"―介入困難事例としてのディオゲネス症候群,老人性隠遁症候群
井藤 佳恵

◆目で見る神経病理3
脳幹型レビー小体
藤城弘樹

◆病名に名を残した医学者3
オットー・ビンスワンガー
新井平伊

◆認知症に関連する用語3
カプグラ症候群/ユビキチン-プロテアソーム
柴田展人

◆臨床に役立つ連絡先3
認知症による判断力の低下による, こんな不安・悩みには…成年後見制度
井藤佳恵


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