ピック病の症状と治療―コウノメソッドで理解する前頭側頭葉変性症―

ピック病の症状と治療

―コウノメソッドで理解する前頭側頭葉変性症―

著:河野和彦(名古屋フォレストクリニック院長)
定価(本体6,000円+税)
B5判 224頁
ISBN978-4-86270-046-9



はじめにより

 アーノルド・ピックが最初のピック病症例を発表してから2012年で120年が経過したことになります。ピック病を独立疾患として最初に認めた論文が日本人医師大成潔によるものだったこともあり、とくに日本ではピック病の名称が認められてきました。
 ところが、「ピック病」は1996年以降マンチェスターグループによる前頭側頭葉変性症(FTLD)分類の下位に組み入れられ、その名称も消えようとしているのが世界の趨勢です。
 驚くべきことに現在、インターネットで検索するとピック病という病名のついた書籍は2冊しかありません。松下正明先生・田邉敬貴先生の対談集(2008)と万引きで一時は懲戒免職になった茅ヶ崎市職員中村成信(しげのぶ)さんの書籍(2011)です。
 勤務医時代、大学からアルバイトに来ていた若い精神科医が統合失調症の遺伝子異常を研究しており「僕は教授になる」と公言していました。彼にピック病の研究もしてくれないかと頼んでみたら「ピック病は数が少ないから論文を書いても引用数が伸びず教授にはなれないから」と言われ衝撃を受けました。
 このような打算的な人たちが学会を構成している限り、患者数の少ない疾患はいっこうに診療技術が上がらないだろうと思います。失語症候群を含めたFTLDには診断の難しい患者もいますが、多くは知識さえあれば簡単に見つけ出せ、簡単に病状を改善できます。そのことを1日も早く世に伝えようとこの本を執筆することにしました。
 私は画像診断学隆盛の現代において、臨床診断を重視しておられた田邉先生を尊敬しており、プライマリケア医に認知症の診断治療を期待しているコウノメソッド(著者の考案した処方マニュアル)の診断編においては、「臨床の鬼」としての田邉先生の魂を引き継いでいきたいという思いでいっぱいです。
 松下先生も20年前に「天秤法」というアルツハイマー型認知症と多発梗塞性認知症の鑑別方法を考案された方で、長年私の目標としてきた方です。そのお二人が「ピック病」の名称を絶対に残したいという思いでおられることを知り、私はこの書籍の題名に「ピック病」を冠する責務を感じました。  また、題名を「診断と治療」にせず「症状と治療」にしたことにもわけがあります。ピック病というと、なにやら得体の知れない診たこともない稀な病気と思われるでしょうが、各地の認知症外来ではおおかた15%であると報告されており、多くの臨床医がピック病を診たことがないのではなく、見過ごしているだけと思われます。ピック病と気づかないとアリセプト5mgで周辺症状が悪化する(激越性、常同行動)から問題なのです。
 けれども、認知症診療経験が浅くCTという武器も持たない開業医に、ピック病をきっちり診断してくださいとプレッシャーを与える気は毛頭なく、「こんな感じの症状ですよ」と提示するにとどめようとしたのが「症状」という題名に込めた思いです。 (河野 和彦)

目次

序 論
1.前頭葉の働き
2.「ピックの限局性脳萎縮」から「前頭側頭葉変性症」までの歴史

◎第1章 ピック病
1.ピック病の概要
 1)30歳で発病したピック病について(織田先生症例)
 2)ピック病と診断されないために苦痛を強いられた3人のケース
 3)医師はなぜピック病を知らないのか
2.ピック病の症状
 1)ピックらしさ
 2)ピック感
    A)ヌーと入ってくる / B)横柄な態度 など
 3)ピック病の異常行動
    A)ふざけ症(モリア) / B)運動常同 など
3.ピック病の画像
 1)障害部位と症状の関係
 2)偽性ピック(河野)への対応
 3)ピック病なのに画像が違う場合
 4)CTの読影
 5)前頭側頭葉変性症のCT所見
4.スピード診断できた症例
5.前頭側頭型認知症(FTD)のその他の病型
 1)FLDタイプ
 2)MNDタイプ
 3)機能画像の賢い利用
6.ピックミックス

◎第2章 前頭側頭型葉変性症の分類
1.ピックの大脳萎縮からFTLD分類まで
2.意味性認知症(SD)
 1)FTLD検出セット
3.進行性非流暢性失語(PNFA)
4.ピック化
5.ピックスコア
 1)採点方法
 2)ピックスコア4以上に前頭側頭型変性症の93.4%が入る
6.大脳皮質基底核変性症(CBD)
7.進行性核上性麻痺(PSP) 
 1)PSPの画像解析
8.FTLDの頻度
 1)久山町研究では把握できない
 2)認知症専門外来でのFTLDの頻度
 3)FTLDを疑うきっかけ
9.最新のFTD診断基準(2011年9月)
10.三大認知症のプロフィールを整理する

◎第3章 FTLDの治療
1.コウノメソッド
2.コウノメソッドの処方哲学
3.中核症状と周辺症状
4.抑制系薬剤
5.過鎮静のチェック(DBCチェックシートの活用)
6.診察拒否のピック病を素直にさせる方法
7.興奮系を減らすこと
8.運動常同を消す
9.抑制系の投与
10.診断学的治療
11.前頭側頭葉変性症の病状変化に伴う診断名の提言
12.興奮系や覚醒系薬剤を試す
13.モンキーチャート
14.処方実例公開

◎第4章 応用編
1.失語症と一次変性性認知症の合併
2.レビー小体型認知症に似たFTLD
3.レビー・ピック複合(Lewy-Pick complex: LPC)
4.理想的な治療について
5.フェルガード
 1)効 能 / 2)効果が期待できる疾患、病態 など

実力チェックテスト

参考文献(五十音順)・ピック病に関する推薦図書
用語集

巻末付録
 前頭側頭型認知症(FTD)の臨床的診断特徴
 意味性認知症(SD)の臨床的診断特徴
 進行性非流暢性失語(PNFA)の臨床的診断特徴
 大脳皮質基底核変性症診断基準
 進行性核上性麻痺診断基準
 アルツハイマースコア
 レビースコア
 レビー小体型認知症各タイプと処方
 海馬萎縮度指標
 「歯車様固縮」の調べ方
 認知症汎用薬剤リスト
 レミニール服用指導書
 メマリー服用指導書

<コラム> いまは亡きピック病研究者にささげる思い など
(囲み) 進行が速いのは意味性認知症 など

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